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紫の上×明石の君という古典百合最強カプについて

*ここから先は筆者による源氏物語への独自の解釈によって書かれています。嘘は書いていないつもりですが、曲解している可能性があるので、ちゃんとした源氏物語を知りたい人はちゃんとした文献を読んで勉強してください。
 

 

  百合というものをどう定義するかは非常にむずかしく、人それぞれに思うところはがあるでしょう。たとえば、百合教という宗教上の理由で男性が登場する作品を一切認めない人もいれば、女性同士のあらゆる関係性が百合の花のつぼみであると考える人もいます。このエントリは後者寄りの立場から書かれたもので、今回扱う女性キャラは2人ともヘテロセクシャルとして描かれていて、男性との肉体関係も作中では認められます……とここまで了解されたうえでこの先を読み進めてください。
 
 今回、私、六条愛理が世間に知らしめたい古典界最強の百合ップル紫の上×明石の君です。身分差百合の決定版ともいえるこの百合ップル源氏物語の中に、2人とも源氏の妻として登場します。この時代は妻問婚(つまどいこん)だったため、2人ともお互いのことを意識しながらも私生活ではすれ違うばかりで、直接顔を合わせることなく長い年月を過ごしていました。しかし、それぞれに思うところがあり、源氏を介してお互いに嫉妬しあうという穏やかではない間柄が続いていたのです。
  明石の君は源氏が須磨に流されていたときに出会って結婚したものの、自分の身分の低さを気にしすぎるくらいに気にしていた女性です。そのため、自分より身分の高い紫の上には非常にコンプレックスを抱いていたので、それを察した源氏に優しくされるのですが、その源氏の気遣いが今度は紫の上の嫉妬を掻き立てるという悪循環になっていました。
  やがて明石の君と源氏との間に娘ができたとき、彼との子宝には恵まれていなかった紫の上の嫉妬は更に激しいものとなっていきます。しかし、物語はここからさらに二転三転することになります。皆さんご存知の通り、その娘はのちほど、将来の結婚のことなどを考慮され、より身分の高い紫の上の養子となるのです。これは娘の将来を慮っての選択でしたが、明石の君にとっては心の引き裂かれるようなつらい出来事だったに違いありません。それこそ、自分の身分とか源氏の寵愛などが些細な問題に思えてしまうくらいには。
 
  ここで、この2人の関係性は大きく変化します。端的に言えば、源氏の寵愛を奪い合う仲から娘をめぐる女性同士の関係へと変化するのです。娘を養子にするのはどちらにとっても最も望ましいものではない苦渋の決断であるため、これ以降の2人は娘に関する幸福と不幸の両方を共有しあうことになります。色恋沙汰の嫉妬のようにある意味ではシンプルな感情とは違う、もっと様々なものが絡み合った複雑な感情の応酬が2人の間に渦巻き、感謝しているけれど、そういう風に割り切れない激情をもてあます。そんな関係は娘が大きくなるまでしばらく続くのですが……。
 
 ここまで激しくお互いを意識しあう関係とはいえ、先述したように妻問婚の時代なので、同じ源氏の妻とはいえ、お互いに顔を合わすことなく長い年月を過ごしてきたのはごくごく自然なことでした。その後、娘が大きくなり、元服(成人の儀)を迎えるとき、2 人ははじめて顔を合わせることになります。
 貴族社会的には明石の姫君の母親は紫の上ということになっていますが、紫の上は姫君を生んだ実の母親である明石の君に配慮して、元服における世話役を明石の君に任せることにしました。そして儀式の当日、2人は公の場所で初めて顔を合わせることになのです。
 このとき2人とも30歳を過ぎていたため、当時ではそこそこの年齢の女性です。お互いに嫉妬したり、恨んだり、嫌いになる一方で娘のことで感謝していたりする2人だったのですが、初対面のその瞬間に2人の間に電撃が走った、とは書いていませんが、お互いにビビっとくるものがあったようです。
 お互いに「なんて綺麗な人なの……!」となって、泣きながら抱き合い、幸せなキスをして終了――とはならなかったものの、そこで初めてお互いの容姿だけでなく教養や身振りの上品さetc...を認め合い、「娘のこと、ありがとう」と言い合ったのは本当です。キスはしませんでしたが、泣きながら抱き合うまではきちんと描かれています。
 今まではお互いの女性として素晴らしさを、源氏や身分や娘などが邪魔になって認め合うことができなかった2人が、初めて会った瞬間にそれぞれの魅力に打たれて、一気にデレるとかめっちゃいい百合ではないすか? ここでは源氏とかもはやどうでもいい存在ですよ。この運命的な出会いのためは源氏がきっかけなので、源氏なんて最初からいらんかったんや! とは言えませんが、少なくともその瞬間に限っては紫の上と明石の君の間には百合と呼べるような強い結びつきがあったのではないでしょうか。
 
 個人的な意見にはなりますが、こういう百合ップルを見ると、登場する女の子がヘテロだからとか、そういう理由で「百合じゃない!」と作品を遠ざけてしまうのは素晴らしい百合を見逃してしまうだけでなく、百合という作品の可能性を狭めてしまうのではないか、と思ってしまいます。もちろん、女の子がヘテロということでショックを受けて悲しい思いをすることもありますけど……。
 その問題は別の機会に考えるとして、今回は紫の上×明石の君というカップリングの魅力を少しでもわかっていただければ嬉しいです。それではごきげんよう。
 
 執筆者:六条愛理
(c)午前3時の六条会