才能をめぐる物語ーアイカツ私論ー

 アイカツ!とはアイドル活動の略語であり、女児向けアーケードゲームを中心としてメディアミックスされている作品群を指す言葉である。今回の記事では、2014年12月の時点で第3シーズンが放映中のアニメについて取り扱う。
 第3シーズンでは主人公キャラを大空あかりとして、彼女を中心としたキャラクターたちのアイドル活動が描かれているが、彼女の憧れの先輩である星宮いちごを主人公とした物語が描かれていたのが第1、第2シーズンである。その物語を一言で要約すると、神崎美月に憧れてアイドルになった星宮いちごがトップアイドルを目指して奮闘する日々を描く、といったところだろう。
 作中には神崎と星宮以外にも魅力的なキャラクターたちが多数登場して物語に関与してくるが、ここではあえてアイカツ!をこの2人の物語だと定義したい。星宮がアイドルを目指すきっかけになったのが神崎であることと、第1、第2シーズンの両方のクライマックスで神崎と星宮のライブパフォーマンスの対決が描かれたことから、この定義にはそれなりの妥当性があるだろう。


 まずは星宮の憧れである神崎というキャラについて整理したい。神崎はアイドル活動を始める以前からファッションモデルとして活動していたが、その活動を休止してまでアイドルになるためのレッスンを重ね、その後にデビューして以来、トップアイドルとして君臨し続けてきた。言い方を変えると、神崎は最初から才能に恵まれていたものの、不断の努力によりさらなる高みを目指そうとするキャラだと言える(彼女が誰よりも努力している姿は作中でも繰り返し描かれていることなので、ここでは個別のシーンは指摘しないでおく)。
 一方の星宮も努力家として描かれており、「アイカツ! アイカツ!」という掛け声でランニングに励む姿は作中でしつこいくらいに描かれているし、崖を登るシーンなどは一種のギャグのように描かれているものの、訓練やトレーニング関する描写には事欠かない。
 それと同時に、第2シーズンの終盤にかけては特に顕著になるが、星宮の才能がずば抜けていることが描かれていることも忘れてはならない。
 第1シーズンの冒頭において、星宮は親友の霧谷あおいに誘われるかたちで神崎の所属するアイドル学校・スターライト学園に編入することになる。その際の編入オーディションのライブステージにおいて、星宮は初めてのステージにも関わらずスペシャルアピールを成功させ、恐るべき才能の片鱗を垣間見せる。スペシャルアピールとは、アイドルがステージ上でアイカツシステムの力を借りて行うイリュージョン演出の一種で、相応の才能、実力、ステージ衣装のコーディネートセンスなど、作中でアイドルとして必要な要素とされるものが揃っていなければ成功させられないものである。その証拠に、大空あかりがなかなかスペシャルアピールを成功させることができずに補習授業を受けるエピソードが第2シーズンの後半に織り込まれており、彼女と対比されるかたちで星宮の才能が描かれていた。
 このエピソードでは星宮自身の口から、心配や不安や乗り越えるべき壁はたくさんあったものの想像していたより苦労しなかった(大意)と語られており、努力さえすればトップアイドルへの道を歩み続けることができた彼女の恐るべき才能の一端を確認することができる。星宮は大空のように努力をしても何度も何度も失敗し、「私ってアイドルに向いてないのかな……」と悩むことは決してない。
 他にも、スターライト学園の教師であり、神崎のコーチや振付師でもあったジョニー別府からも「今にして思えば、スター宮の才能はずば抜けていた」と言われたり、星宮が実のところ、神崎が目標とする伝説のアイドルユニット・マスカレードの片割れであるミヤの娘であるといった設定まで明らかになるなど、星宮の才能が神崎以上のものとして設定されているのは間違いない。
 そうすると、この2人が対決した場合には星宮が勝利するのが道理であるものの、第1シーズンの2人の対決の舞台となったスターライト・クイーンカップは神崎の勝利というかたちで終わった。しかし、かなりの僅差での勝利であり、数年のキャリアがある神崎に対し、アイドルとしての活動期間が1年に満たない星宮が肉薄したのは彼女の才能が確かなものであることの証左と言える。星宮の才能は、大空のように才能に恵まれれているわけではない人間に対してだけではなく、神埼のように才能に恵まれた人間に対してすら残酷なものとして目の前にあったことだろう。
 以上の点をふまえると、第2シーズンは神埼が次に星宮と対決することになったとき、つまりは星宮がさらに才能を開花させたときにどのように立ち向かうのかを模索する物語だと解釈することができる。
 神埼は第1シーズンの最後にスターライト・クイーンカップで星宮に辛勝したのち、スターライト学園を退学しているが、彼女はまもなくドリームアカデミーという別のアイドル学校の設立に携わっていたことが第2シーズンで明らかになる。ドリームアカデミーは、スターライト学園という枠組みでは評価されなかったアイドルの卵たちに別の道があることを指し示す場所として作られており、プロデューサーやデザイナーといったアイドル本人だけではなく、アイドルの輝きをサポートする人々にもフォーカスが当てられている。神埼がドリアカに関与していた具体的な理由については作中で触れられてはいないが、これまでの流れを考慮すると、アイドル自身の才能や努力以外のファクターに星宮への対抗策を見出そうとしていたのだろう。だが、そちらの方向性に限界を感じたのか、早神埼は早々にドリアカを離れて別の道を模索することになる。そこで彼女が辿り着いた答えが夏樹みくるだった。


 夏樹みくるは神埼のパートナーとなりWM(ダブルエム)というユニットを結成し、星宮がドリアカの音城セイラと結成した2wingS(トゥウィングス)と対決するというのが第2シーズン終盤の物語となる。ここで重要になってくるのが夏樹のキャラクターなのだが、彼女には不明瞭な部分が多い。もちろん、ガーデニストとアイドルの両方をこなしているとか、個別のことは指摘できるものの、彼女が一体どうすごいのかということは、非常にわかりにくい。神埼のパートナーになれるくらいだからすごい、などと描写しても、あまり説明になっていないというのがそのわかりにくさの一端を表しているのではないだろうか。
 神崎と夏樹のライプパフォーマンスの映像や曲などは非常によく出来ているし、神崎の隣で踊る夏樹に対して星宮たちは「(夏樹)みくるさんはやっぱりすごい!」と絶賛される。だが、それはアイドル活動と無縁な生活を送ってきた夏樹が、才能と努力とキャリアを重ねてきた神崎と釣り合うだけのアイドルとしての実力を持っていることを説明するものではない。
 もちろん、夏樹にも神崎のパートナーとしての実力不足のために苦労するエピソードがないわけではないが、あまり多くは描かれていない。むしろ星宮が神崎のライブにゲストとして出演するときに神崎との差を埋めようと努力する描写のほうが多かったくらいである。描写の量の差は、主人公と準・主役級との差とも考えられるが、これまでの流れを踏まえると別の見方が可能になるのではないだろうか。筆者はこらを夏樹の潜在的な才能が、星宮を上回っているのではないか、と考えたい。
 そうすると第2シーズンは、神崎が才能と努力とキャリアを重ねても自分を追い抜きかねない星宮という残酷なまでの才能に対し、夏樹というそれを上回る理不尽な才能で対抗しようとした物語として解釈できる。
 結果としては、神崎のWMは星宮の2wingSに僅差で破れてしまう。星宮のパートナーとなった音城は、スターライト学園のオーディションに落ちたところをドリームアカデミーのティアラ学園長にスカウトされてアイドルになったギター少女という異色のキャラとして描かれており、いわば才能のベクトルが他のキャラとは全く異なる存在である。そうすると2wingSの勝利は、神崎と夏樹という正統派の魅力を、星宮と音城という化学反応が上回った結果だと言うこともできるだろう。


 以上、アイカツ!の第1シーズンと第2シーズンを星宮と神崎の物語として再解釈した私論を長々と書いてきたが、読者の皆にはもちろん反論があることだろう。才能という曖昧なものを読みの軸にしているし、各キャラの才能の扱いについても筆者の読みに不満のある人も少なくないだろう。
 しかしながら、間もなく公開される劇場版アイカツ!で(おそらく)神崎と星宮の物語が一旦終わりを迎えるであろうでこの時期に、この記事を公開できたことには一定の意味があるだろう。


 執筆者:六条くるる

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